『偽イスラエル政治神話』(18)

第2章:二〇世紀の諸神話

電網木村書店 Web無料公開 2000.2.4

第2節:ニュルンベルグの正義の神話 6

(b)証言-2

[ユダヤ人絶滅の口頭命令告白を撤回した将軍]

 犯罪を認める証言の中でも、オーレンドルフ将軍の証言は、具体的な真相を明らかにするものである。彼は、一九四一年の夏から一九四二年の夏まで、ロシア南部でパルチザン活動を指導していた政治委員の処刑を任務とする“アインザッツグルッペン”[機動分隊]を指揮していた。国際軍事裁判で、彼は、その任務に加えて口頭命令で支給されたトラックを利用してユダヤ人を絶滅する任務を受けており、その対象には女性と子供も含まれていたと告白した(ニュルンベルグ国際軍事裁判記録[原注1])。

 ニュルンベルグ軍事裁判の第九事件におけるオーレンドルフ将軍の二度目の証言は、まったく異なるものになっていた。最初に彼は、ユダヤ人絶滅の口頭命令に関する国際軍事裁判での告白を撤回した。彼は、ユダヤ人とロマ人を殺したが、それはパルチザンとの戦闘の範囲内でのことで、ユダヤ人やロマ人を絶滅する特別の計画に従ったものではないと主張した。彼はまた、四万人を殺したことを認め、国際軍事裁判で証言した九万人という数字を否定した(ニュルンベルグ軍事裁判記録)。

原注1:国際軍事裁判(IMT)では、ヒトラー体制の高官を裁き、それに続くニュルンベルグ軍事裁判(NMT)では、より重要でない犯罪者を裁いたので、複数の審理に告訴された被告の証言が比較できる。オーレンドルフ将軍のNMTにおける証言(同前)も、その一例である。

 このような数々の疑問点があるにもかかわらず、批判的な歴史家に対して、批判的な反論で対決せず、科学的な矛盾点を討論することもないというのが実情である。ただ反対するのみで、ましな例では黙殺し、有害な例では言論を抑圧している。

[見直し論の父、ラッシニエらを徹底的に黙殺]

[改訂版では省略されているが初版から訳出]

 黙殺の対象として最大なのは、自らがブッフェンヴァルトとドーラに収容された経験を持つフランス人の歴史家、ポール・ラッシニエ[一九〇六~六七]の数多い著作である。ラッシニエは、ヒトラーの犯罪に関する批判的な研究の始祖であり、『ユリシーズの嘘』[61]、『ヨーロッパのユダヤ人の悲劇』[64]、『アイヒマン裁判の現実』[63]などを発表していた[訳注1]。

訳注1:以上のラッシニエの著作は、すべて絶版であるが、最近、写真による復刻版が出ている。また、巻末資料に収録した英語版の『ホロコースト物語とユリシーズの嘘』(78)の中に、『ユリシーズの嘘』と『ヨーロッパのユダヤ人の悲劇』の主要部分が含まれている。ラッシニエに関しては、拙著『アウシュヴィッツの争点』で一応の紹介をしたが、本書の「訳者はしがき」でもふれた。

 現在、黙殺だけではなくて、アメリカにおける度重なる迫害の対象となっているのは、技術者、ロイヒター[訳注の追加]である。彼は、アメリカのいくつかの州で、ガス室による処刑設備の製造に携わった専門家であり、すでに紹介したトロントのエルンスト・ツンデルの裁判の審理過程で、アウシュヴィッツなどの“ガス室”に関する純粋に技術的な鑑定を行った。

訳注の追加:ローマ字表記はLeuchter。ドイツ系の名字なので、日本ではドイツの発音でロイヒターと表記する前例に習った。アメリカでは「リュウヒター」または「リュウチャー」と発音しているが、「ロイヒター」でも通じる。

[フランス人の]フォーリソン教授[文書鑑定の専門家で博士]は、“ガス室”の存在に疑問を呈したために、リヨン大学から解雇され、法的な追及を受け、ついには、暗殺の意図を持つ襲撃を受けてナイフで刺され、重傷を負った。

[一九八九年九月一六日の事件。事後に“ユダヤ人の記憶の息子たち”と名乗る団体が犯行声明を発表した]

 一九七八年三月には、フランスの歴史家、フランソワ・デュプラが、特殊部隊[犯人は不明だが乗用車に爆弾を仕掛ける専門技術を持つ集団]によって暗殺された。彼は、六百万人という虐殺の数字に疑問を抱き、あるオーストラリア人が作成したパンフレット[『六百万人は本当に死んだか?/最後の真実』]を頒布していた。

[この中間に、“ゲルシュタイン陳述”の自己矛盾を論証して得た博士号を剥奪されたアンリ・ロックに関しての記述があるが、すでに紹介済みの部分と重複するので割愛する]

 出版者のピエール・ギヨームは、『歴史見直し論者年代記』を出版したために罰金を課せられ、書店のウィンドウのガラスを割られたりして、破産に追い込まれ、それまでに出していた雑誌の発行もできなくなった。

 ドイツでは、司法官のシュテークリッヒが迫害を受けている。彼は、著書『アウシュヴィッツ神話』(78)[ママ。73年に出した初版は直ちに市販禁止]によって、収容所に関する様々な記録や目撃者の証言を検証し、数多い反証の存在を指摘した。彼の博士号すらも、ヒトラー時代の一九三九年六月七日に制定されていた法律にもとづいて剥奪された。

 アメリカの歴史家[本来は工学博士の教授]、バッツも、同じような目に遭っている。彼は、著書『二〇世紀の大嘘/ヨーロッパ・ユダヤ人絶滅説の認定に対する告発』(76)によって、事実と神話の境目を確立しようと努力した。この本は、カナダとドイツで発売が禁止されている。

[以下、すでに紹介済みのツンデルについて短い記述があるが、ロックの場合と同じ理由で割愛する]

[一四年に及ぶ裁判と言論抑圧の個人的経験]

[この項は改訂版での増補]

 批判的な研究に関しての、このような言論抑圧と、このような沈黙の共犯関係と、タブーの守護者たちへの過大な資金援助と抱き込み工作が、いかに存続しようとも、私の心の中の疑念と懐疑は消えることはないし、このような不公平と、このような差別の経験は、その気持ちをさらに強めてくれるだけである。

 このような差別と、このような不公平に関して、私は、すでに一四年に及ぶ経験を持っている。LICRA[人種主義と反ユダヤ主義に反対する国際同盟]の告発による一九八二年以来の裁判で、私は、レバノン戦争を政治的シオニズムの論理によるものと位置付けた。LICRAは、初審でも、控訴審でも、破棄院[日本の場合の最高裁に相当]でも、相も変わらず却下と訴訟費用の支払いを言い渡された。

 だが、その間、私が一九八三年にパリのパピュルス社から出した著書、『イスラエル問題』の場合には、出版社が、またたく間に破産に追い込まれた。

 パリのアルバトロス社から出した著書、『パレスチナ、神の伝言の土地』の場合には、書店への正常な配本が不可能になった。その本を陳列した書店は、ショーウィンドーを割られるという組織的な脅迫を受けた。配本のほとんどが出版社に戻ってきて、事実上、出版社は流通機構から撤退した。この『偽イスラエル政治神話』の場合には、初版が出ると、[左は]『カナル・アンシェネ』から、[右は]『ル・モンド』に至るまで、『ル・パリジャン』『ラ・クロワ』『ユマニテ』なども言うに及ばず、すべての新聞が軒並み牙をむき出してきて、私に反論の機会すら与えようとしなかった。唯一の例外の『フィガロ』も、私の反論の掲載を受け入れはしたが、それとても肝心な部分を削り落としてしまった。

 そこで私は余儀なく、イスラエルの何人かの新しい歴史家たちと同様に、このフランスで、私の改訂増補した本をサミスダットにより自費出版せざるを得なくなった。この本の初版は、すでに各国語に翻訳されて、イタリア、ドイツ、トルコ、レバノン、アメリカ、さらにはロシアでさえも出版されているというのに、フランスでは、この有様なのである。

[以上で改訂版での増補は終了]

[批判的な研究者に対しての憎悪の大合奏への対抗]

 ヒトラーの犯罪に関する批判的歴史研究に対しての、この沈黙、この迫害、この言論抑圧は、まったくの名誉毀損の嘘で固めた口実の上に安住している。ヒトラーの数限りない犯罪を、ユダヤ人に対してだけでなく、彼に敗北を喫させたドイツやスラヴ諸民族の共産主義者などの、すべての彼の敵に対しても同様に行われたものとして説明することは、いささかも彼の残虐行為の暴露をごまかそうという意図によるものではない。それなのに、彼らは、“見直し論”と名乗る批判的な歴史研究に対して、“ヒトラーの犯罪の無実または軽減の主張”だという反対理由を、組み立てているのである!

 ナチの犯罪の説明は、ユダヤ人だけに対する大規模なポグロムに矮小化してはならないのであって、ファッシズムに反対する戦いにおける何千万もの死者の問題でなければならない。ファッシズムとは、すなわち、差別と人種的憎悪を煽る“人種主義”なのである!

 私が現在、この本の中で、出典を明示しながら主要な資料を紹介しているのは、まさに、以上に記したような、批判的な研究者に対しての憎悪の大合奏に対抗するためなのである。それによって、私は、この問題の過去の客観的事実についての、本物の議論の保証に役に立つことを願っている。研究者の誰それには、この種の政治的な底意があるとか無いとかいった非難を先行させたり、意見を聞きもしないで言論弾圧に走ったり、または、沈黙に追い込んだりするのは、もう止めにして、資料にもとづく客観的な議論を行うべきである。憎悪に満ちた罵りの繰り返しや、そのための嘘のこね回しなどによっては、人類の未来を築くことなどできはしない。

 確認された歴史的な証拠と科学的な研究にもとづく批判によってこそ、世論を、過去の犯罪の反省と、未来の予測へと導くことが可能になるのであって、このような批判は、道徳的であると同時に科学的な義務でもある。


(19)(b)証言-3