『偽イスラエル政治神話』(32)

ナチス〈ホロコースト〉をめぐる真実とは?
イスラエル建国・パレスチナ占領の根拠は?

電網木村書店 Web無料公開 2000.5.5

[付録]イスラエルの“新しい歴史家たち”

『ヤルシャライム』紙は一九九五年四月二八日、エルサレムのヘブライ大学でゲルマン研究学科の主任、モシェ・ツィムメルマン教授とインタヴューした。

 掲載記事の中の記者の紹介によると、ツィムメルマン教授は、ユダヤ人・第三帝国・ホロコーストなどのドイツ問題の専門家である。彼の歴史分析と、その結果として彼が得た結論は、……このところ、数々の公然たる議論の的となっている。……彼が確立した過去と現在の比較対照を受け入れるのは大変なことである。たとえば彼は、占領地の勤務を志願したユダヤ人の兵士と、親衛隊員の勤務を志願したドイツ人の兵士とを比較したり、ヘブロンのユダヤ人植民者の子供がヒトラー・ユーゲントのように育っていると言明したり、……イスラエルがホロコーストを利用していると告発したりするのである。

●ツィムメルマン:《ホロコーストの利用に関して私が主催した会議の席上で、私は、その利用が頻繁であり、ホロコーストはイスラエル創設の基本的弁明としてもっともらしく聞こえると指摘した。それが本当なら、われわれは、このシオニズムに対する抜群の貢献について、ヒトラーに感謝しなければならなくなる。……聴衆の一人が『ハアーレツ』紙に、私がヒトラーに感謝しなければならないと言ったという投書をしたが、私は、その反対のことを言ったのだ》

●質問:『我が闘争』では、ユダヤ人を退治すべき人種として指定している。この本は常に、ユダヤ人退治という意図を発表するためのヒトラーの作戦計画の一つと見なされてきた。

●ツィムメルマン:《それでは、なぜ彼は、ニュルンベルグ法を制定するのに二年半も待ったか? さらには、彼が、ユダヤ人退治の計画的な意図を抱いていたのだとすれば、なぜ彼は、法律を必要としたのか?

 水晶の夜を例題にして考えてみよう。一九二三年の暴動を記念しはじめて以来のヒトラーの課題は、ドイツからポーランド国籍のユダヤ人を追い出すことだった。ヒトラーは演説の中でユダヤ人の殺害について一言も語っていない。しかし、パリでのユダヤ人の若者によるドイツ人外交官暗殺という口実を得たゲッベルスは、それを利用するためにポグロムを組織したのだ》

●質問:すべてのドイツ人を有罪だと考えるか?

●ツィムメルマン:《最近の二〇年の研究によると、一九三三年にヒトラーに投票したという以外にナチズムとは関係がない人々は、ドイツを覆っていた無秩序を口実とし、あれほど極端な支配に進むとは思ってもみなかったと語るが、やはり、責任の一端を感じている。しかし、私は、個人の罪を追及しない。……ナチズムは、多数派の人々が最初の段階の恐怖を選択し、あるいは無視し、あるいは協力した場合に陥る状態の見本だ。私は、この現象を研究し、その尺度に基づいて、イスラエルにおける状況を判断している。土地の占領が道義に反するという抗議の声は、まるで聞こえてこない。占領を承認する政党に投票することは、重大な罪悪だと考えられていない。占領地で勤務するために旅立つ志願兵は英雄視されているのだから、この志願兵を具体的に、親衛隊員の勤務を志願したドイツ人の兵士の場合と比較できる》

●質問:どういう方法によれば、われわれの占領や、われわれの法律をパレスチナ人に強制する行為と、ナチズムが犯した恐怖の数々との比較を確立できるか。

●ツィムメルマン:《われわれは、これまでのように振舞うのに絶好の“口実”を持っている。しかし、われわれの一人一人の中に怪物が潜んでいて、もしも、われわれが、つねに正当だと主張し続けると、その怪物は巨大化する。……私は、すでに現在、ある現象が日々巨大化の傾向をたどっていると考えている。私の定義によるユダヤ人の人口のほとんどが、ためらうことなく、ドイツのナチスの生き写しになっている。ヘブロンの植民者のユダヤ人の子供を観察してほしい。彼らはヒトラー・ユーゲントと、そっくりそのままだ。彼らは幼少時代から、アラブ人はみんな劣等で、ユダヤ人以外はすべて敵だと教え込まれる。彼らは偏執狂になる。ヒトラー・ユーゲントとまったく同じように、自分たちを最優秀人種だと思い込んでしまう。レヘヴァン・ツェエヴィ(一九九〇年から一九九二年の間、シャミール政権の大臣)は、すべてのパレスチナ人の領土からの追放(“移住”)を主張した。これはナチ党の公式の政策、すなわち、ドイツのユダヤ人すべての追放と、まったく同じだ》

●質問:あなたは、ヘブロンに住まず、カハネ[極右シオニスト。本訳書九〇頁の訳注1参照]の政党に投票せず、占領地の特殊部隊に志願しないユダヤ人という存在を強調している。

●ツィムメルマン:《私は、特殊部隊の志願兵と、徴兵制で召集された兵士を区別する。……しかし、そこでもまた、第二次世界大戦の期間のドイツ軍との比較を行なう。……われわれ、つまり、われわれユダヤ人は、この戦争の最中に一〇万人以上のドイツ人の兵士が、人道に反する犯罪に加わることを拒んで処罰されたという事実を、改めて思い起こすべきだ。時には、彼らは、ユダヤ人を殺すことを拒んだがために、処罰されたのだ》

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 イスラエルの『ハアーレツ』紙の一九九五年五月一〇日号には、ツィムメルマン教授をヘブライ大学の教壇から追放せよと威嚇する記事が載った。この威嚇は、七九人の教授(リクード党員または宗教的な統一主義者)の請願書によって支持されるものだったが、同紙の五月五日号に掲載された記事の中の談話で、ダン・マルゲリが応酬した。彼は、“人々の健全な意見”を名目とする教授たちの要求について、“思想の統一”への反対者を同様に大学から追放せよと提案したナチスの大学教授たちの態度と似ていることを指摘しながら、この追放の企てに対して抗議した。

《人はしばしばハイネのつぎの言葉を引用する。“本が焼かれる時には、人々もともに焼かれて死ぬ”。同じことがまた繰り返されている。言論の自由に関する正当な権利が脅迫を受ける時には、本も焼かれて死ぬ。……

 私は自問自答する。私の思想を理由に大学から追放しようと欲する人々は、私の本をも焼けと要求するようになるだろう。毎年、多数の学生が私の本を読んでいる。彼らもやはり火刑台に捧げられるのだろうか?

 私の話が恐ろしいのだろうか。私が、ヘブロンの子供たちがバルーフ・ゴールドスタインの死を記念する初めての一周年記念日に呼び集められていることに関して語り、その儀式をナチスの示威運動と比較するからでだろうか?

 私が語ることは、ヒトラーの犯罪を矮小化しようとする議論とは、まったく関係がない。……ナチズムの歴史を詳しく知っているからこそ、私は、あらゆる角度からの真実を明らかにして、危険な可能性の存在についての警告を発したいと願うのだ。……私がドイツ政府に操縦されていると思う人々もいるようだが、ドイツでは反対に、政治家や公式の歴史家が見直し論者の潮流を排斥していることを思い出してほしい。その証拠となるのは、見直し論者が一九九五年五月七日に、(ドイツが降伏した)一九四五年五月八日を、単に解放の日としてだけではなくて、同時に、“ドイツ人が東ヨーロッパから追放されはじめた最初の日”として思い起こすための集会を計画したら、会場への集合を当局が禁止したことだ。

 現在もっとも重要なことは、イスラエルで、真実、誠実、言論と批判的研究の自由を守ろうと考える人々が、これらの貴重な社会的理念の敵との協力や、リンチの準備を覆い隠す政治的イデオロギーの葡萄の葉としての奉仕を拒絶することなのだ》

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 歴史家のバルーフ・キムメリングは、この論争に関して、『イディオット・アハロノート』紙の一九九五年五月七日号で、やはり、言論と批判的研究の自由を擁護した。彼は、ツィムメルマン教授の追放を要求する請願書の署名者たちを、つぎのように非難している。

《彼らは、暴力と政治的イデオロギーをよりどころとしながら、ヘブライ大学に、知的・政治的・思想的なテロリズムの支配体制を樹立しようとしている。……思想の自由がなければ、ナチスやボルシェヴィキーの学問の実例が明らかに示すように、その名に値する科学の発達は不可能となる。……ツィンムルマン教授が追放されたなら、マッカーシー議員[アメリカの戦後のアカ狩り煽動者]の亡霊がヘブライ大学の構内をうろつきまわることになるだろう》

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『ハアーレツ』紙の一九九五年五月一二日号では、アリエー・カスピーが同じく、ナチズムの歴史の専門家のツィムメルマン教授を、彼が占領地のユダヤ人不良少年をヒトラー・ユーゲントの行為と比較したという口実で、追放する計画に反対して、つぎのような抗議の声を挙げている。……

《七九名の署名者の内のだれ一人として、ユダヤ人のシャバク[イスラエルの秘密警察]による拷問が明らかになったことに関しての請願はしていない。彼らは、尋問の途中で人が死んでも驚かない。……彼らは、植民者がアラブ人を殺しても何もいわない。……彼らは、キリャット・アルバにあるバルーフ・ゴールドスタインの墓の上に立つ“英雄バルーフ”と刻んだ霊廟の除去は要求しない。彼らは、ゴールドスタインの行為を繰り返さないという約束はしない》

 同紙の注釈には、これらの人々[七九名の署名者]への反論は、出版に要する費用の関係で遅くなるし困難であるという事情の説明が、つぎのように付け加えられていた。

《彼の話によれば、ユダヤ=ナチズムは、イスラエルよりも英語圏の国々のユダヤ人の間で非常に人気がある。どんな内容のユダヤ=ナチズム文書でも、簡単な電話かファックスによる要請だけで、出版に必要な費用の援助を受けることができる。それとは真反対に、ユダヤ=ナチズムへの反対者たちは、自費出版を余儀なくされている》


(33)訳者解説(その1)